1.パチンコ研究

国立科学技術振興機構のリサーチマップというデータベース型研究者総覧があります。簡単にいうと国が運営する研究者情報サイトです。通常、研究者の情報を調べるときは、このリサーチマップか所属大学(所属研究所)のホームページを検索します。研究者は、それらに研究テーマを記載しますが、私は言語心理学・ギャンブル障害・認知科学などをあげています。ところが、ウェブで私の名前を入力すると「パチンコ」というキーワードが最初に掲示されるのです。

ギャンブル障害は研究テーマにしていますが、パチンコはあげていません。今年度も研究論文を2編、国際ジャーナルに発表していますが、所属大学のホームページで紹介されただけで、ほとんど話題になりません。やはり、世間におけるパチンコの関心が高いのだと思います。世間的に私はパチンコ研究者となっているのかもしれません。

2.昔はよかった?

パチンコ人口が急激に減少していることは、周知のことと思いますが、その原因を「最近のパチンコはつまらないから」とする意見があります。たとえば、全日遊連のホームページには「ファンからの声」が掲示されており、「もうパチンコは全く勝てなくなった」「今の台は演出量が多い」「昔の懐かしい台を入替した方がよい」「遊技形態の(等価交換の撤廃、貯玉)等の見直し」等の熱い意見が掲載されています。全体的に演出面や勝ち負けに関することが多いようです。

最近は勝てなくなったと言っても、パチンコ遊技はあくまでも営業である以上、客は昔から負けているはずです。以前は、現在よりも機種性能や釘状態、サービスなどを熟知することで勝率をあげることは可能でしたが、その分、初心者の勝率が低くなります。以前に比べれば、勝ちが均等に配分されるようになったわけです。演出過多と感じる人もいるでしょうが、電子ゲームの発展をみれば、演出は進歩していると見るべきです(任天堂スイッチよりスーパーファミコンの方が好きという人もいるでしょうが)。遊技形態に関して、交換率などはフレキシブルに対応できた方がよいとは思いますが、レギュレーション問題は業界が決められることではないので厄介です。

3.自伝的記憶の美化

自らの記憶を心理学では自伝的記憶といいますが、不快が強い記憶(いわゆるトラウマ)以外の自伝的記憶は美化される傾向にあります。よくいわれる「昔はよかった」という心理です。それでは本当に昔はよかったかといえばそうでもありません。古代ギリシャでも「昔はよかった」「今の若者は」といっていた記録があるので、いつの時代も自伝的記憶は美化されていたのです。

「昔は良かった」というと老人というイメージを持つかもしれませんが、そうでもありません。若者にも結構います。全日遊連のホームページでも20代に「昔はよかった」とする意見が多いことからもわかると思います。「昔はよかった」という心理は、本当によかった可能性もありますが、時代の変化を受け入れるのに消極的なだけかもしれません。

パチンコ遊技機は各時代を反映しています。演出技術やコンテンツ、またゲーム性は時代に合わせて変化していきます。公営ギャンブルがあまり変化していないのと対照的と言えます。この変化がパチンコの特徴の一つで、長所でもあり短所でもあるのです。変化しないと時代に取り残される可能性もあるのです。

 

筆者紹介:早野慎吾(都留文科大学 教授) 神奈川県出身 専門は言語心理学、社会言語学。1992年上智大学大学院文学研究科修了。常磐大学講師、宮崎大学准教授などを経て2012年より現職。言語とパーソナリティの関係を中心に研究していたが、通勤時、立川駅前で開店前のパチンコ店に毎日のように客が並んでいる様子を見て、パチンコ関連の研究を始める。現在、パチンコを中心としたギャンブル依存問題とAIによる人形浄瑠璃ロボットに関する研究を行っている。著書『首都圏の言語生態』、『パチンコ広告のあおり表現の研究:パチンコ問題を考える』など多数。

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