2023.3.31

パチンコ業界に「偏見がない企業」は増加傾向 他業種から注目・評価されるホール業務スキルと今後

コロナ前と現在とで、私たちの生活は様変わりしました。代表的なものは、「対人接触・対面コミュニケーション」です。感染予防の一環として出来る限り人と接触しないことが推奨され、大多数の人が心掛けたのではないでしょうか。

昨年末、大手ファミレスが一部店舗で運用していた猫型の配膳ロボットを全国の約2100店舗に導入したと発表しました。このロボットについて利用者にアンケートを取ったところ、「満足」または「大変満足」と答えた人が約9割いたそうです。店員と接触しないことで、感染リスクを抑えたいと思う人が多いということでし ょう。

ほかにも大手牛丼チェーン店がフードコートのようなシステムを導入しています。自販機で食券を買うと自動的にキッチンに注文が入り、料理が出来上がると大型モニターに番号を表示。お客さんはそれを取りに行き、食べ終わると返却口に持っていく。スタッフと接触する機会はほぼゼロです。

他業種からニーズが高い「ホール業務経験者」の強み

つい先日、パチンコ業界外の企業から中途採用に関する問い合わせがありました。他業界から相談を受けることは確かに増えていますが、今回は清掃業界でハウスクリーニング事業を展開するA社からで、内容は「パチンコ店の業務経験者を採用したい」という具体的なものでした。

コロナ禍でリモートワークが浸透して在宅機会が増えましたし、家を清潔にしておきたいという意識が高まっていることもあって、ハウスクリーニング業界は右肩上がり。つまり、事業を拡大したいので、人材が欲しいというわけです。それにしても、求めたい人材がなぜパチンコ店の業務経験者なのでしょう。確かにクリンネスはホール業務のメインの一つですが、特殊な経験スキルではないはず…。この疑問は、話が進むにつれ氷解しました。求めるスキルは、清掃の速さや丁寧さではなかったのです。

A社の営業担当曰く、「作業そのものは人によって多少の差はあるが、最終的に『家が綺麗になる』という結果にはほとんど差がない。どの会社に清掃を依頼するか、最初は費用感なり見積内容で決めることが多いが、リピーターになるかどうかは作業スタッフのコミュニケーション能力、主に現場での対応力にかかっている」というのです。

初対面時、清掃箇所の確認時、作業終了後のチェック時、支払方法の確認時などで、どうしても会話が必要となります。その際に、必要最低限の対応しかしない人と、コミュニケーションを含め顧客視点で対応する人とで、リピーターを生み出すのはどちらでしょうか?

A社が「リピート率の高い人材」に関して集計したところ、ホール企業出身者の割合が高いことが判明。ホール業務で培った接客対応力、経験スキルを武器に活躍しているようです。当社に「パチンコ店の業務経験者を紹介してほしい」と来るのは、理にかなっていたわけです。

顧客接点の減少と省力化によって変わっていく業務スキル

現在、ホール企業で働くベテランの方は、接客は出来て当たり前と思っていることでしょう。仕事は現場に始まり、その基本が出来た上で数字の管理、営業、販促などの分野を伸ばしていく。

しかし、最初にお伝えしたように、コロナ禍で接触に関する意識は変わってきています。推測ですが、スタッフから話しかけられたくないお客さんは増えているでしょうし、業務以外でお客さんと話したくないと思う若いスタッフも増えているでしょう。

ホール現場においては省力化を実現させるための機器や設備、スマスロやスマパチの登場によって業務工数が削減される一方で、意図せずとも発生していたようなお客さんとの接点は確実に、そして、さらに減少していくはずです。適正人員数が見直され、必要最低限の対応でも済んでしまう高い接客対応力を重視しない時代がすぐそこまで来ているのかもしれません。

数の減少によってさらに高まる希少性

前述のA社がそうであるように、パチンコ業界に偏見がない企業が増加傾向にあると体感しています。以前は、パチンコ業界出身者が他業界に応募した際に、「パチンコ」と話した途端に面接が終了したとか、応募時はレスポンスが早かったのに履歴書を提出した途端に音沙汰なしとなったとか、やるせない話をよく聞きました。

大きな転機となったのは、規則改正かもしれません。2017年7月に規則改正案が公表され、警察庁はパブリックコメントの募集を開始しました。このときの案には、多くの業界人が失望し、明るい未来が見えなくなり、他業界に転職をする人が急増。その後の6号機の低迷ぶり、およびホールの業績悪化は、皆さんご存知のとおりです。

その頃に転職した人が他業界で成功し、評価され、偏見がなくなってきているのかもしれません。時代の移り変わりとともに、業種や職種によって貴重でニーズの高い人材になっているとも言えます。

非接触やリモート対応、AIによる自動化など人の手を介さないハードやソフトが増えれば、業務フローや求める人材が変化するのは必然でしょう。その一方で、パチンコ店の対面接客や対応力のように、スキル保有者の減少によって「ニーズが高まる」、「希少性が高まる」分野は今後も出てきそうです。

何に価値を見出すか、何をもって差別化とするか、トレンドを抑えながら時には逆行して考えてみることも必要なのかもしれませんね。

 

筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)

キャリアコンサルティンググループ
マネージャー

大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。

 

※これまで掲載された「現場視点からみる業界の『人材課題』」のアーカイブをはじめ、🔒マークが付いている「プレミアム記事(有料プラン)」は、https://yugi.tes.bz/category/premium/から閲覧できます。

 

RELATED ARTICLE 関連記事